企業の物流管理は、いま新しいステージにのぼりつつある。
これまで取り組んでこなかった世界に踏み込み始めたという意味での新しいステージである。
といっても、これまでまったく想定していなかった世界ではなく、これまでやりたくてもできなかったことができるようになったということである。
コスト削減という点では、この新しいステージにこそ大きな削減余地があるといってよい。
これまで物流管理というと、物流活動をいかに効率的に行うか、ローコストで行うかということの実現に力が入れられてきた。
もちろん、現実的に行われている物流活動を効率的に行おうとするのは当然の取り組みであり、必要なことである。
この取り組みは、今後とも続けることが必要である。
ただ、効率的に行うといっても、売れ残っている在庫の保管効率を上げたり、売れるかどうかわからないものをいかに効率よく輸送したとしても、経営的にはまったく意味のないことである。
それよりも、売れ残りをなくし、売れているものだけを輸送することにした方が、コスト的には圧倒的に削減効果が大きい。
市場への出荷動向に同期化させ、本来必要のない物流を徹底的に排除する取り組みがいま求められている。
また、物流活動は、生産や仕入、営業という物流を発生させている部門の動き方に大きな影響を受ける。
その結果として物流コストが発生している。
さて、このような関係において物流コストについての責任帰属はどうなるのであろうか。
物流活動のコストだからといって、すべて物流部門の責任に帰されたのでは、さらなるコスト削減はできないことになる。
責任を負えないコストについてはメスを入れることができないからである。
その意味で、物流管理を実効あらしめるものにするためには、物流コスト発生の因果関係を明確にするということが欠かせないステップになる。
物流管理はここからスタートするといってよい。
そして、ここにも物流コスト削減の大きな可能性がある。
このように、物流活動の効率化の前に、本来物流管理として行うべきことがあるのである。
ただ、これらは、本文で詳しく述べるが、情報制約や技術的な制約によりできなかったのである。
いま、これらの制約が排除され、できるようになったのである。
わが国におけるこれまでの物流管理の取り組みについて概観してみたい。
いまさら過去を振り返っても意味がないと思われるかもしれないが、これまでの物流管理の歩みには、物流管理のこれから進むべき方向性が示唆されていると思われるからである。
温故知新的な感覚で気楽にお読みいただきたい。
物流事始めはいつかとなると、論者によって説が分かれるかもしれないが、ここでは、日本生産性本部(当時)が米国に派遣した「流通技術専門視察団」が帰国後に発表した『流通技術」(xxxxxx第xx号)という報告書を起源としたい。
この報告書は一九五六年に発表されたが、その中に「physical distribution」という言葉が登場する。
この言葉は原語のまま使われているが、おそらく、これがわが国における「物流」に関するそれは物流の近代化から始まったわが国に「物流」が登場したのは一九五○年代xxの物流の歴史を振り返る用語の最初の登場といってよいだろう。
このphysical distribution という言葉は、みなさんも見聞きしたことがあると思われるが、世界のうち物的な移動にかかわる分野を指していることは言葉からも容易に推測できる。
当初、原語のまま使われていたこの言葉に「物的流通」という訳語が与えられるのは六四年になってからのことである。
同年七月九日付の日本経済新聞が、通産省(当時)・産業構造審議会流通部会の中に「物的流通委員会」が設けられることになったと報じたが、新聞紙上に初めて物的流通という言葉が登場したのはこれが最初である。
また、六五年一月に閣議決定された「中期経済計画」において「物的流通の近代化」が強調され、六五年に運輸省(当時)が発表した『運輸白書』には「近代化の過程にある物的流通」という副題が付けられていた。
つまり、この頃、物流(物的流通)が、行政サイドにおける大きな課題になっていたことがわかる。
なぜ課題になっていたかといえば、物流がわが国の経済成長を阻害する要因になりかねない状態にあったからである。
当時、生産分野では大量生産技術が進展し、消費の分野ではスーパーの登場により大量販売の方式が広がり始めるなど、「大量生産・大量消費」といわれる経済構造が確立されつつあった。
このような中で、生産と消費を結ぶ物流が大きな遅れを取っていたのである。
当時、物流は、手荷役、肩荷役という言葉に象徴されるように主に人力で行われており、多大な時間を要していた。
また、道路網や港湾施設の整備も十分ではなく、大量、高速の物流とは程遠い状態にあった。
大量生産と大量消費を結ぶ役割を担う物流の遅れが経済成長の足を引っ張りかねない存在になっていたのである。
「近代化」という名のもとに、機械化やハード面の整備が行政主導で進められたのはこのような事情があったのである。
これまでの物流管理の取り組みいま当たり前のように使われている「物流」という言葉が広がり始めたのは七○年頃のことである。
言葉が物的流通から物流に変わったこと自体には特に理由があるわけではなく、単に物的流通という言葉が略されたに過ぎない。
ただ、この言葉の違いは大きな意味を持っている。
物的流通という言葉は、すでに述べたように、政策としての近代化の対象を意味していたといってよい。
ところが、物流という言葉は、まったく違った意味を持っていた。
物流という言葉は、企業におけるマネジメントの対象を意味する言葉として使われたのである。
それまで行政の課題であった物流が、企業のマネジメントの対象として位置付けられるようになったのである。
これが七○年頃のことであり、多くの企業に、物流部とか物流課という物流という名称を冠した部門が誕生し始めたのである。
ちなみに、いまや物流関係者ならよくご存知の「日本ロジスティクスシステム協会」という団体は、九二年に、それ以前にあった「日本物流管理協議会」と「日本物的流通協会」(その後、「日本ロジスティクス協会」に改称)という二団体が統合して誕生したのであるが、実は、これら二団体が設立されたのが七○年である。
七○年を「物流管理元年」などといったりするが、それはこのような状況によるのである。
その意味で、企業における物流管理は、七○年をもって始まるといってよい。
この頃の管理は、物流を効率化するというよりは、当然のことながら、そこにある物流のムダを省くことに力が注がれた。
なにしろそれまでの物流は、各地の工場や支店、営業所など物流が発生する場所ごとに、それぞれ勝手なやり方で行っていたからである。
倉庫は各事業所ごとに何カ所にも分散していて、商圏を全国展開している大手メーカーなどの場合は、その数が一○○カ所を軽く超えるというのが当たり前の状況であった。
倉庫業者やトラック輸送業者との契約もバラバラで、料金水準、契約条件は千差万別というのが実態だったといってよい。
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